身延山久遠寺のしだれ桜
山梨県身延町にある身延山久遠寺は、樹齢400年を超える二本のしだれ桜で知られています。
私が初めて訪れたのは2001年。境内ではしだれ桜が満開を迎えていましたが、その後ろにそびえる山には、まだ白い雪が残っていました。
さらに山の上へ行くと、そこは膝まで雪が積もる冬景色。
桜が咲く春と深い雪の残る冬が、同じ日の身延山に並んでいました。
そして2020年、19年ぶりに再び久遠寺を訪れました。古木は変わらず花を咲かせていましたが、その枝ぶりは、記憶の中にある姿とは大きく変わっていました。
身延山久遠寺のしだれ桜 基本情報
項目 | 内容 |
|---|---|
名称 | 身延山久遠寺のしだれ桜(みのぶさんくおんじのしだれざくら) 代表的な古木は ・妙法桜(みょうほうざくら) ・瓔珞桜(ようらくざくら) |
桜の種類 | シダレザクラ |
| 推定樹齢 | 妙法桜・瓔珞桜ともに400年以上 |
オススメ度(5段階) | ★★★★ |
一言 | 壮大な伽藍と二本の古桜が織りなす、身延山を代表する春景色 |
例年の見頃 | 3月下旬~4月上旬 |
撮影日 | 初回訪問 2001年4月上旬 最新訪問 2020年3月下旬 |
所在地 | 山梨県南巨摩郡身延町身延3567 身延山久遠寺境内 |
アクセス | 中部横断道 ・身延山ICから約15分 |
駐車場/トイレ | 駐車場有・トイレ有 |
| その他 | ・ライトアップ:無 |
参考URL | 身延山久遠寺 |
残雪の身延山を背に咲く妙法桜

2001年にフィルムで撮影した妙法桜です。
長く垂れ下がった枝が幾重にも重なり、淡い桜色の大きな傘を広げていました。左下には久遠寺の建物がわずかに見え、その後ろには雪をまとった山がそびえています。
しだれ桜の背景に雪景色というのは初めてだったので、私の中では久遠寺の一番の思い出となっています。
朝の光に浮かんだしだれ桜

夜桜のようにも見えますが、これは朝に撮影した写真です。
朝の陽射しを受けた花に露出を合わせると、背景は黒く沈み、光を受けた桜だけが浮かび上がりました。
この時は、狙って撮影したわけではなくフィルムの現像が終わって見てみたら結果的に狙ったかのようなこの景色になっていたというのは内緒です。
久遠寺を代表する妙法桜と瓔珞桜
久遠寺の正式名称は「身延山妙法華院久遠寺」です。
日蓮聖人が1274年に身延山へ入り、現在の久遠寺につながる草庵を構えたことに始まります。その後、1475年に現在の場所へ移され、伽藍の整備が進められました。
その境内を代表する桜が、祖師堂の傍らにある妙法桜と、仏殿前の瓔珞桜です。

こちらは2001年にフィルムで撮影した瓔珞桜です。
太い幹から左右へ伸びた枝が大きく広がり、その先から無数の細い枝が地面へ向かって垂れていました。
花の多さも見事でしたが、私が強く引かれたのは、その花を支える複雑な幹と枝の形です。
桜は花だけを見れば華やかなものですが、古桜は幹や枝を含めて一つの風景なんだなと思いました。
桜が満開だった日に、山の上には膝までの雪
久遠寺の境内で桜を撮った後、身延山の上、奥之院思親閣へ向かいました。

そこで待っていたのは、一面の雪景色でした。
木々も屋根も深い雪に覆われ、歩く場所によっては膝まで沈みました。少し前まで満開の桜を撮っていたことが、嘘のような風景です。
標高が違えば気候も変わるのは当然ですが、これほどはっきり春と冬が分かれているとは思いませんでした。
桜を見に来たはずが、山の上では突然の雪中行軍です。
2001年の身延山は、桜が咲いていたこと以上に、下では春、上では冬だった場所として記憶に残りました。
19年ぶりに訪れた2020年の久遠寺

2020年、久遠寺を再び訪れました。
境内の池には錦鯉が集まり、その上からしだれ桜の枝が垂れていました。強い朝の光が差し込み、池の水面と桜を照らしています。
19年ぶりに歩く境内には、以前と変わらない建物や風景が残っていました。
一方で、二本の古桜は、2001年に見た姿とは同じではありませんでした。

瓔珞桜には、太い枝を切除した跡が残り、幹や枝を支えるための支柱が設置されていました。
2001年の写真では、太い枝が左右へ大きく伸び、そこから長い枝垂れ枝が幾重にも落ちていました。
同じ桜だと分かっていても、二枚を見比べると、その違いに驚きます。
それでも残された枝には花が咲き、古木を守るための手当てを受けながら、春を迎えていました。


妙法桜も、2001年の姿とは一見すると別の木のように見えます。
かつては、長い枝が幹を覆い隠すほど密集し、大きな花の塊となっていました。2020年の写真では枝の間に空が見え、太い幹や枝の骨格がはっきりと現れています。
しかし、幹の立ち上がりや太い枝の分かれ方をたどると、トップの写真に写っている妙法桜と同じ木であることが分かります。
花や細い枝は季節や年月によって姿を変えますが、特徴のある幹は、19年前の面影を残していました。
写真を並べなければ、ここまで大きな変化には気づかなかったかもしれません。
同じ場所に咲いても、桜は同じ姿ではない
2001年に見た久遠寺のしだれ桜は、長い枝を地面近くまで垂らし、残雪の山を背に盛大に咲いていました。
2020年に再訪すると、妙法桜も瓔珞桜も花を咲かせていましたが、枝ぶりは大きく変わっていました。
桜は毎年、同じ場所で咲きます。
けれども、いつ訪ねても同じ姿で待っていてくれるわけではありません。
2001年の豊かな枝ぶりも、2020年の手当てを受けながら咲く姿も、その時にしか見ることのできなかった久遠寺の春です。
残雪の山と満開の桜。そして、19年という時間を刻んだ二本の古木。
私にとって身延山久遠寺は、春と冬だけでなく、過去と現在が一つの風景の中で重なる場所になっています。

