福島県石川郡古殿町の山あいに、春の終わりを待つように咲く一本の大きな桜があります。
それが、越代の桜です。
公式には「越代のサクラ」と表記されることも多い、樹齢約400年のヤマザクラ。
福島県内の桜としてはかなり遅い時期に咲くため、春の桜巡りの締めくくりに訪れたい一本です。
越代(こしだい)という地名の由来は、定かではないことも多いですが、近くに「越代の延命清水」があり、地名にまつわる伝承が残されています。
その伝承とは、腹痛に苦しんだ武士がこの地の清水を飲んで元気になり、その子孫が代々、山を越えて清水を飲みに来たことから「越代」という名が生まれたとされています。
また、桜を植えて自分の延命と桜の成長を願ったという話も伝わっています。
樹齢400年というと、一本桜の中ではそれほど古い方ではないですが、この越代の桜は、見栄えや雰囲気がとてもよく、「福島県内 1本桜 番付表」では横綱に位置付けられています。
私も大好きな桜の一本で人に自信を持ってオススメできる桜です。
越代の桜
越代の桜 基本情報
項目 | 内容 |
|---|---|
名称 | 越代の桜(こしだいのらくら) |
桜の種類 | ヤマザクラ |
| 推定樹齢 | 400年 |
オススメ度(5段階) | ★★★★★ |
一言 | 丘の上で大きく枝を広げ、まるで空へ羽ばたくように咲く見栄えのよい名木です。 |
例年の見頃 | 4月下旬~5月上旬 |
撮影日 | 初回訪問2015年4月下旬 最新訪問2023年4月下旬 |
所在地 | 福島県石川郡古殿町大久田 |
アクセス | 常磐自動車道 いわき湯本ICから45分 磐越自動車道 小野ICから40分 |
駐車場/トイレ | 駐車場有・トイレ有 |
その他 | ライトアップ有 18:30〜20:30頃 福島県の天然記念物 林野庁の「森の巨人たち百選」 |
参考URL | 古殿町 |

まさに空に向かって羽ばたいていきそうな桜。
雲の流れにのどかな春のひと時をより感じました。

小高い丘の斜面に佇んでいるので、下から仰ぎ見る形になるのですが、それが迫力をプラスしてより大きく堂々と見えます。

手前には花壇があるので、色とりどりの春を一緒に楽しめます。
実際は低姿勢から頑張って撮影しているわけですが。

ザ・春という雰囲気の一枚。
ひっきりなしに訪れる人がいて賑わってはいますが、いわゆる混んでるみたいな感じではないので、ゆったりとした時間の中で楽しめます。

夜桜に向かっていくブルーアワーに昼間とは全く違った姿に見えます。

夜のチューリップと桜。
不思議な雰囲気ですが、春の夜を演出してくれます。
春のふくろう
山あいの桜が満開になるころ、広場では小さな催しが開かれていた。
町の中心から少し離れた場所にある、ゆるやかな坂の上の広場。
そこには毎年、桜の季節になると地元の人たちが集まってくる。
屋台のにおい、子どもたちの声、紙コップに注がれたお茶の湯気。
春の風はまだ少し冷たかったが、広場には陽射しとやわらかな明るさがあった。
その中に、チェーンソーの低い音が響いていた。
ブォン、ブォン。
音だけを聞けば、少し荒々しい。
けれど、丸太の前に立つ職人の手つきは不思議なくらい丁寧だった。
大きな木のかたまりが、少しずつ形を変えていく。
角が落とされ、丸みが生まれ、やがてそこに、ふたつの大きな目が現れた。
「ふくろうだ」
誰かが言った。
近くで見ていた子どもが、うれしそうに笑みを浮かべる。
「かわいい」
職人はチェーンソーを止め、少し照れたように笑った。
「山にいるからな。ここには、ふくろうが似合うと思って」
そう言って、また木に刃を入れる。
木くずが春風に舞った。
花びらとは違う、乾いた木の香りが広場に広がる。
しばらくすると、丸太はもう丸太ではなくなっていた。
丸い目をしたふくろうが、桜の下でじっとこちらを見ている。
その表情は、どこかとぼけていて、どこか賢そうだった。
子どもたちは笑い、大人たちは「よくできてるなあ」と言いながら近づいていく。
広場の向こうでは、桜が満開だった。
長い冬を越え、山里にようやく訪れた春。
その桜は、派手に咲き誇るというより、見守るように静かに花を広げていた。
ふくろうもまた、桜の前で春を見守っているようだった。
屋台の湯気。
子どもの笑い声。
遠くの山の薄い新緑。
そして、春の日差しを受けて光る木肌。
職人が最後に目のまわりを整えると、ふくろうは少しだけ表情を変えた。
まるで命が入ったように見えた。
「できた」
その声に、広場から小さな拍手が起きた。
職人は帽子を取って、軽く頭を下げた。
大げさな拍手ではない。
けれど、そこには地元の催しらしい、あたたかい空気があった。
夕方が近づくと、人は少しずつ帰っていった。
屋台が片づけられ、広場に静けさが戻る。
けれど、桜はまだ明るい空の下で花を揺らしていた。
できあがったふくろうたちは、白い台の上に並んでいる。
丸い目で、何も言わずに桜を見ている。
その姿を見ていると、木は形を変えても、まだどこかで山の時間を覚えているのかもしれないと思った。
桜の花びらが、風に少しだけ舞った。
木から生まれたふくろうたちは、その春の日を忘れないように、じっと見つめていた。

