春先の北海道ドライブ。
季節外れの雪で予定は狂い、函館ではなく室蘭から始まった旅。
それでも白神岬で見た夜の海は美しく、このまま最高の日の出を迎えるはずだった。
……はずだった。
予定外の室蘭上陸から白神岬へ
あれは、いつかの春先に北海道をドライブしていた時だった。
本来なら青森から函館へ渡るフェリーに乗る予定だった。しかし、東北地方を襲った季節外れの雪によって東北自動車道はまさかの滑り止め規制。
青森行きは断念せざるを得なくなった。
急遽、どうやって北海道へ渡るか代替案を探したところ、宮古から室蘭へ向かうフェリーにキャンセル待ちで乗ることができ、なんとか北海道ドライブにありつけた。
函館上陸の予定が室蘭。
まあ、これも旅である。
気を取り直して松前を目指し、北海道最南端の白神岬にたどり着いたのは深夜三時頃だったと思う。

ムーンロードと天の川が広がる北海道最南端の夜
水平線や青森の陸地沿いには雲があるものの、海には月の光が道のように伸びていた。
ムーンロード。
頭上には天の川。
時折くるくると回る灯台の光も、まるで夜の海に置かれたワンポイントのアクセントのようで、まさに旅だなと思った。
綺麗だ。

夜から朝へと時は流れ、空の色も少しずつ変わっていく。
このままいけば、絶景の日の出が見られることは約束されていた。
私は車の外に三脚を立て、お月様の夜景を撮りながら朝を待った。
東北で雪が降ったくらいだから、北海道の夜はまだまだ冷える。
少しだけ。
ほんの少しだけ車の中で暖を取りながら朝を待とう。
そう思った。

絶景の日の出は約束されていた
トラブルもあった。
函館から始まるはずだった旅。
雪に振り回され、予定外の室蘭上陸。
しかし、そのおかげで旅の醍醐味を味わえた。
そして、北海道で最初に見る朝日が、その全てをリセットしてくれる。
いや、むしろこの遠回りがあったからこそ、忘れられない旅になる。
私はそう確信していた。
白神岬に棲む魔物の正体
……。
……はっ。
眩しい。
何が起きたんだ?
そんなはずはない。
私は絶景と約束したはずだった。
窓の外を見る。
太陽は既に水平線からかなり高い位置にあり、燦燦とした陽射しのビームを容赦なく私に放っていた。
やられた。
白神岬に棲む魔物。
睡魔である。

外に出ると、置き去りにされた三脚が朝日を浴びながら物悲しそうに佇んでいた。
「お前だけでも日の出を見られたか……」
などと、訳の分からないことを考えながら撤収した。
白神岬に棲む魔物『睡魔』に敗北。
本来なら感動の日の出を迎えているはずだったが、目を覚ますと太陽は既に高い位置から容赦なくビームを放っていた。
そんな朝も、旅の記憶になる
夜明けや日の出の写真だけではない。
「ちょっと時間があるから仮眠を……」
そんな油断から、絶景との約束をすっぽかしたことは数知れない。
もちろんスマホのアラームはかけている。
しかし、寝ぼけた私はいつの間にか停止ボタンを押し、何事もなかったかのように再び深い眠りへと落ちていく。
あれもきっと魔物の仕業なのだろう。
でも、不思議なことに失敗した旅ほどよく覚えている。
完璧な一枚の写真は時が経つと色褪せる。
けれど、やらかした思い出は何年経っても色褪せない。
そして今となっては、東北の雪も、予定外の室蘭上陸も、白神岬の朝日を寝過ごしたことも、全部ひっくるめて「あの時の北海道の旅」になっている。
だから旅は面白い。
そういえば、あの魔物とは、その後も何度か別の場所で遭遇している。
どうやら奴は、絶景スポットが好きらしい。
※余談だが、白神岬の隣に位置する福島町の矢越岬には、かつて海を荒らす魔物が棲みついており、源義経が弓で退治したという伝説が残っているそうだ。
どうやらこのあたりには、昔から魔物が出るらしい。
もっとも、私が白神岬で遭遇した魔物は、海を荒らすこともなく、弓矢で退治することもできないのだが。

