佐々木桜
島根県浜田市三隅町にある佐々木桜は、石見地方に春の訪れを告げる一本桜として親しまれている古木で、川沿いの斜面に大きく枝を広げる姿は、さりげない存在感がある桜です。
その名は、江戸時代に三隅地方を治めていた代官、佐々木 丈左衛門(ささきじょうざえもん)に由来するのですが、全国様々な桜がありますが、下の名前ではなく「苗字」がついた桜名はかなり珍しい。
佐々木丈左衛門は、三隅組代官として地域の発展に尽力した人物で、特に飢饉の際には薩摩芋の栽培を広め、多くの人々を救いその功績から地元では「名代官」として慕われ、今もなおその名が語り継がれているようです。
雨上がりの曇り空でしたが、満開の花を見上げながら、三百年以上にわたって浜田の人々を見守ってきた桜と、地域の暮らしを支えた名代官の姿にしばし思いを馳せました。
佐々木桜 基本情報
項目 | 内容 |
|---|---|
名称 | 佐々木桜(ささきざくら) |
桜の種類 | エドヒガン |
| 推定樹齢 | 300年~350年 |
オススメ度(5段階) | ★★★ |
一言 | 石見地方に春の訪れを告げる一本桜 |
例年の見頃 | 3月下旬 |
撮影日 | 2023年3月下旬 |
所在地 | 島根県浜田市三隅町三隅 |
アクセス | 山陰道(浜田・三隅道路) 石見三隅ICから1分 JR三保三隅駅から徒歩14分 |
駐車場/トイレ | 駐車場無・トイレ無 |
その他 | 浜田市指定天然記念物 |
参考URL | はまナビ |




春の入口
高速道路を降りると、景色の流れは急にゆっくりになった。
長い移動の緊張がほどけるのか、それとも旅先の空気に切り替わる瞬間だからなのか。インターチェンジを出た直後というのは、いつも少しだけ特別な気分になる。
見慣れない町並み。
初めて走る道。
そして、この先にはどんな景色が待っているのだろうという期待。
そんなことを考えながら少し車を走らせていると、一本の桜が目に入った。
道と川が橋で交わる場所。
人や車、水の流れも行き交うような辻の隅に、その桜は立っていた。
満開だった。
枝いっぱいに咲いた花は雲越しの陽射しを受けてしっとりと柔らかく輝き、まるでこの町の春を一身に引き受けているようだった。
私は思わず車を停めた。
旅の目的地はまだ先にある。
もっと有名な場所も訪ねる予定だった。
それでも、その桜の前を素通りすることはできなかった。
しばらく眺めていると、人々の姿が目に浮かんできた。
昔、この道を歩いた旅人。
畑へ向かう人。
学校へ通う子どもたち。
それぞれが足を止め、あるいは立ち止まることなく、この桜を見上げたのだろう。
桜は何も語らない。
ただ毎年、春になると花を咲かせる。
誰かを待つわけでもなく、誰かを引き留めるわけでもなく。
それでも人は、その姿に足を止める。
不思議なものだと思う。
旅先で出会う景色には二種類ある。
わざわざ会いに行く景色と、偶然出会う景色だ。
けれど後になって思い出すのは、案外後者だったりする。
「あの時、あの町に入った時に最初に見た桜が綺麗だったな」
何年か後、きっと私はそう思い出すのだろう。
目的地の名前は忘れても。
立ち寄った順番を忘れても。
町の入口で静かに咲いていたあの桜だけは、きっと記憶に残り続ける。
私は再び車に乗り込んだ。
窓の向こうで、桜は変わらず春の風に揺れている。
まるで、
「よくきたね」
そう言ってくれているようだった。


